2012年1月30日月曜日

冬の午後に。

「お暇を頂きたいと思っております」

ティーカップを差し出しながら、執事が言った。
こともなげに。
まるで、夕食のメニューを告げるような口ぶりだった。

「……休暇が欲しいという意味ではないな」
「はい」

執事は、いつものように佇んでいる。
離れていてもぬくもりを感じるほどに近く、暖かな視線と共に。
彼はその視線をそのままに、ここを去りたい、と言う。

「何かあったのか、それとも待遇に不服か」
「申し上げられません」

口を噤む。

言葉が途切れるか途切れないかのうちに、答えが返ってくる。
まるで何もかも、予測していたかのようだ。
すべての答えを用意して、彼は決めたのだ。

それであれば、もう自分に許しを請う必要はない。
決めたとおりにすればよいのだ。
そうして決めたことが、きっと、彼にとって最も正しいことなのだから。

そう言おうと思い、執事のほうを振り返る。
視線を合わせると、彼は驚いたように少しだけ目を見開き、
それから、微笑んだ。

私の執事は美しい。

艶やかな黒髪、白い肌、整った顔立ち、殊更に印象を深くする瞳。
彼はどこか危うげな空気を纏っていて、それはどこか死の香りがした。
それでいて、凛として強く、まるで冬山にそびえる樹木を思わせる。

私は、視線を合わせたまま、首を横に振った。

「だめだ」

きっぱりと、言い放つ。
執事は、目を眇めて笑い、小さく、「そうですか」と呟いた。

彼から、異論はなかった。

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