2011年4月28日木曜日

窓からの光。

銀色のペン先が走る紙面は、じわり、と一瞬だけにじみを見せた。
よく見ると少し筋張った、けれどしなやかな長い指が繊細な文字をつづる。

「ご自身で選んで生まれて来たとでも言うのでしょうか。
まるでご自身の力だけで生きてでもいるかのように話される」

書き物をする手を止めることなく、ゆっくりと穏やかに執事が言った。
ペン先を見つめる視線は、まるで自分の意思を離れた何かを静観するかのようだった。

「そうした人ほど、他人の命もその手でどうにかできると思い込んでおいでです。
そうした考え方ももちろんあるでしょう」

窓からさしてくる午後の光が、彼の輪郭をぼんやりと縁取っていた。
夢を見ているような気分でその姿を眺めていると、
彼は書き物をする手を止めて、ふっと視線を上げた。
しかしその視線はこちらを捕らえることはなく、はるか彼方を見つめている。
彼は遠くの景色を眺めるときのように、かすかに目を細めて、
コト、と小さな音を立ててペンを置いた。

「しかしそれが真理だとお思いなら、どうにかされるのはご自身のほうであることに、
なるべく早くに気づかれるべきでしょうね」