2012年2月14日火曜日

GIFT

小箱を手にしたまま、執事は固まって動かなくなった。
それを面白がって眺めている間に、メイド長が書類を受け取りに来たが、
彼はそれにすらまるで気づかないといった風だった。

「お前のために作らせた」

私の机の前に立ち尽くしたまま、彼はじっと小箱を見つめている。
その眼鏡の奥で、綺麗な瞳が動揺しているのがわかった。
小箱の中には、彼のために作らせたカフスボタンが入っている。

彼が知らないはずはない。

これを作らせるために私がどんなに奔走したか、
彼は屋敷の中の騒動によって知っているはずだった。
無論、それを彼に見せ付けるために、私は若干大げさに皆を騒がせた。

「ほんの詫びのつもりだから受け取ってくれ」
「……詫び、と、おっしゃられますと」
「お前に暇を出しそびれたからな」

執事は、顎を引いて少し上目遣いに私を睨みつけた。
可愛いやつだ、と思う。
そんな風に甘えたって無駄だ。

「別に怒っているわけじゃない」
わざとらしく付け加えてやると、執事は小さく肩を竦めて見せた。
「あてつけですか」

酷いことを言う。

従者が身につける装飾品のために奔走する主人が他にいるだろうか。
私の口元に意地の悪い笑みが浮かぶのを見て、
彼は殊更に悔しくなったようだ。

私は、この従順で賢い執事が、
「頂くわけに参りません」と「頂戴いたします」の間で右往左往する様を、
彼がその手で淹れた紅茶と共に楽しむことに成功した。

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