今朝からずっと頭痛がしていた。
窓の外を見れば、どんよりと厚い雲が垂れ込めている。
雨が降るか、それとも、この冷え込みでは雪になるかもしれない。
カウチベッドに横になっていると、扉をノックする者があった。
返事をするのも鬱陶しいほどに頭が痛い。
いくらか間が空いて、ようやく入室を促す返答をすると、
その声はまるで呻くようなものになった。
やがて静かに扉を開けて入室した執事は、私を見るなり眉を顰める。
体調を心配しているのではなく、単に行儀が悪いと言いたいのだろう。
私は彼には構わず、カウチに仰向けになったままでいた。
彼が歩み寄ってくるたび、空気が揺れるのが解る。
静かなのだ、と思い当たった。
とても静かだ。まだ昼間なのに、何もかもが眠りに落ちたように。
きっと雪が降るのだ、と、私は思った。
こうして寝転がったままで窓の外を見上げると、
まるで湖の底に沈んだ風景を見下ろしているような気がした。
どちら側にいる自分が現実なのだろう。
目を閉じてしまえば、もう何が現実だろうと構わないとすら感じた。
「……私が死のうとしたことがあっただろう」
従者は、まるで刃物を突きつけられたときのようにぴたりと立ち止まった。
「あの日もこんな風に静かで、寒かったな」
彼は、立ち止まった位置から私を観察している。
しばらく彼のしたいようにさせていると、執事は突然、その長身を折った。
気配で気づいてまぶたを上げたとき、彼は私の傍に膝をついていた。
じっと覗き込んでくる優しい瞳。
それをまっすぐに見つめ返してやると、彼は驚いたように目を見開き、
そして、すぐに柔らかく微笑んだ。
「あの日も、あなたの誕生日でした」
嫌な男だ。
私は腹の底からこみ上げてくる笑いを堪えながら、まぶたを下ろした。
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